絡まり合う記憶
ジミー・ツトム・ミリキタニの作品には、コラージュが重要な位置を占めています。猫や花、広島、トゥーリーレイクの風景などを描いた作品にもコラージュの要素は見られますが、雑誌や新聞の切り抜き、写真、コピー、有機素材などを組み合わせた、より複雑な画面構成の作品も手がけられました。
2002年に路上生活からアパートに移り住んだミリキタニは、ほぼ同時期に親族と再会し、新たなコミュニティとのつながりを広げていきました。その様子は、2006年のドキュメンタリー映画『ミリキタニの猫』に描かれています。この転機を経て、彼のコラージュ作品は、ますます精巧で複雑なものへと発展していきました。これらの作品には、ミリキタニ自身や家族、『ミリキタニの猫』の監督リンダ・ハッテンドーフとそのスタッフの写真に加え、友人や敬愛するアーティストによる作品のイメージが織り交ぜられています。こうした手法によって、彼の過去と現在、記憶と歴史、そして日常生活が、まるで万華鏡のように重なり合って映し出されていると言えるでしょう。
本セクションでは、主に2002年以降に制作されたコラージュ作品を展示します。その多くは、これまで公開される機会のなかったものです。これらの作品は、晩年の10年間にミリキタニが家族や地域社会と新たに築いた絆を反映すると同時に、トゥーリーレイク、原爆投下、戦争、日米関係、そして世界政治といった、彼の制作において繰り返し扱われてきた主題にも引き続き向き合っています。そうした政治的・歴史的なテーマは、彼の身近にいた人々の喜びに満ちたイメージと重ね合わされることで、より多層的な意味を帯びています。
これらの複雑な構成をもつコラージュ作品は、ミリキタニが自身の人生の物語を、時系列に沿った単線的な伝記として単純化することなく、その多層性や矛盾を保ったまま視覚化していったことを示しています。並外れた人生の歩みのなかで彼が築いてきた、多様なネットワークやコミュニティの姿が、これらの作品から浮かび上がってきます
Jimmy Tsutomu Mirikitani, untitled (big turtle table collage), after 2002, MASA Collection, Tokyo, Japan, EL2025.051
ビデオによる紹介
このビデオは、リンダ・ハッテンドーフ監督によるドキュメンタリー映画『ミリキタニの猫』には収録されなかった映像をもとに、彼女自身が編集したもので、ジミー・ツトム・ミリキタニの人生と作品における重要な瞬間を捉えています。
ミリキタニが、サンフランシスコで従妹のの娘ジャニス・ミリキタニと会う様子、そしてニューヨークの自身のアパート兼スタジオを紹介する様子が収められています。
untitled (big turtle table collage)
untitled (big turtle table collage), Jimmy Tsutomu Mirikitani
untitled (big turtle table collage) label
これは、ミリキタニが晩年に制作した作品のなかでも、特に精巧で複雑なコラージュの一つです。本作は、テーブルの天板を支持体とし、さまざまな図像や写真、コピー、雑誌や新聞の断片を用いて構成されています。そこから、路上生活を終えた後も、自ら回収した素材や入手しやすい素材を創造的に活用し続けていたことがうかがえます。
長寿・幸運・不滅の象徴である大きな亀のドローイングを中心に、映画『ミリキタニの猫』を通じて、あるいはその後に交流や再会を重ねた友人や地域の人々の写真が周囲に配置されています。本映画の監督リンダ・ハッテンドーフも画面内に繰り返し登場し、日本語で「今は大スター」と書き添えられた言葉も見られます。友人たちの写真に加えて、ミリキタニ自身の若い頃の写真、パブロ・ピカソ、バラク・オバマ大統領、エリザベス2世といった人物の写真、そして日本文化を象徴する図像などが並置されています。画面左上には明治天皇とロマノフ家のモノクロ肖像があり、その上には1904年から1905年の日露戦争を描いた日本の木版画が重ねられています。これらの要素の重なりは、経歴や芸術的系譜、世界政治への視点を重ね合わせながら人生を語る、ミリキタニ独自の表現手法を示しています。
untitled (Janice Mirikitani: “Past Recalled”
untitled (Janice Mirikitani: “Past Recalled”), Jimmy Tsutomu Mirikitani
untitled (Janice Mirikitani: “Past Recalled” label
ジャニス・ミリキタニ(1941–2021年)は、詩人・教育者・活動家として、第二次世界大戦中の強制収容を経験した日系アメリカ人の記憶と、彼らに対する不正義を主題とする作品を残しました。ジミー・ツトム・ミリキタニの従妹の娘である彼女は、家族の絆を共有するとともに、芸術を癒しと社会正義のための手段と捉える姿勢においても、ミリキタニと多くの点で重なり合っていました。こうした関心は、彼女の詩作のみならず、サンフランシスコのグライド・メモリアル教会での地域活動にも色濃く反映されています。
本コラージュ作品では、2001年のニューヨーク・タイムズ紙に掲載された9.11後のジャニスの省察を伝える記事と、彼女の詩「Why is Preparing Fish a Political Act?(魚を用意することがなぜ政治的行為なのか?)」が並置されています。この詩の中で、ジャニスは魚を捌くという日常的な行為を、記憶や生存、世代を超えた労働への瞑想へと昇華させています。祖母の丁寧かつ儀式的な調理の所作を通して、家庭内で当たり前のように行われる行為が、文化の継続性、そして同化や忘却へのささやかな抵抗を内包していることが示されます。
作品には、ミリキタニに特徴的なコラージュの手法で、手書きの日本語やジャニス自身の写真が含まれており、公的な記憶と個人的な証言の境界を曖昧にしています。二人の作品はともに、歴史的トラウマを抱えながら生きること、アイデンティティ、そして他者への慈悲について、世代を超えた対話のあり方を示しているのです
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考察
こちらでは、「絡まり合う記憶」セクションに出品されている以下の作品について、彼の親しい友人でありドキュメンタリー制作者でもあったリンダ・ハッテンドーフとマサ・ヨシカワ、ならびに本展担当キュレーターの金子牧が共同で執筆した解説文をお読みいただけます。これらは展覧会図録より転載したもので、図録にはミリキタニの作品に関するさらに多くのエッセイや論考が収められています。
untitled (white dragon protecting Mirikitani and friends), Jimmy Tsutomu Mirikitani
External Resources
詳しく見る:ミリキタニの画号
ミリキタニが自身の画号である「雪山」(せつざん)について説明する様子を収めた、リンダ・ハッテンドーフによるビデオ映像です。

ジミー・ミリキタニの生涯を地図でたどる
このインタラクティブ・マップでは、日本各地およびアメリカの西海岸と東海岸に点在する重要な場所を通じて、ジミー・ツトム・ミリキタニの人生をたどることができます。これらの場所が、彼の作品にどのような影響を与えたのかをご覧ください。


